東急レクリエーションが、激動する時代に次の一手として立ち上げたコミュニティカフェ事業。
これは、東急レクリエーションの手がけてきたエンターテイメント事業のノウハウを
「カフェ」の場に持ち込むことで、新たな価値を創造しようという試みだ。
ファンを中心に様々な人々が集い、交流し、繋がる「場」づくりをコンセプト設定から店舗運営まで一気通貫で行う。
すべては、関わる人々を幸せな気持ちにするために。縁の下の力持ちを努めたのが、彼ら4人である。
映像事業部での長い経験の後、経営企画室へ。事業開発部では新規事業の開発はもちろん、マネジメントとしてもメンバーをサポート。
ライフ・デザイン事業部の店舗からキャリアをスタート。現場で培った豊富なノウハウで、さまざまな施策やイベントを実現。
新たなキャリアを求めて2017年に当社に中途入社。話を聞く力を武器に、人びとの想いによりそうべく奮闘中。
入社1年目で新規店舗オープンのメンバーとなり、プロジェクト1番の若手。持ち前の明るさとコミュニケーション能力で、周囲を和ませるムードメーカー。
エンターテインメントを提供する会社
だからこそできるカフェ事業とは
近年の大規模な渋谷再開発の大きな柱であり、クリエイティブワーカーを魅了することを、その目的の一つに掲げる「渋谷ストリーム」。Googleがオフィスを構えることで、ご存知の方も多いだろう。
その4階にあるTORQUE SPICE & HERB, TABLE & COURT (以下トルク)が、東急レクリエーションの手掛けるコミュニティカフェ事業1号店だ。
『サイクリストフレンドリー』をコンセプトに、ヘルシーなワークスタイルを提案するカフェとして、様々な自転車ユーザーの感度をくすぐる自転車情報の提供に加え、自転車通勤をするワーカーをサポートし、趣味や興味を通じて交流する「場」の提供を行っていくことがトルクに課せられたミッションである。
所は変わって、町田市にも東急レクリエーションの手がけるカフェがある。2019年に南町田グランベリーパーク駅直結にオープンした商業施設「グランベリーパーク」内にあるひつじのショーンビレッジ ショップ&カフェ(以下ショーンビレッジ)がそれだ。
イギリスの人気クレイ・アニメーション「ひつじのショーン」の世界に没入できるミュージアムカフェ。
牧場主が出かけている隙に、ショーンたちがホームパーティーを行っているというシーンコンセプトで、細部までこだわり抜いた内装と、お客様もキャラクターの一人として一緒に楽しめる本格的な世界観が話題だ。
・まだこの世にないものをゼロから立ち上げること。
・魅力を増幅させ発信すること
飲食にとどまらず人と人とをつなぐ「場」としてのコミュニティカフェ事業はまだまだ道半ばだ。
TORQUE SPICE & HERB,
TABLE & COURT
渋谷を、もう一度クリエイティブワーカーが
集まる街にするために
かつて渋谷には数多くのスタートアップが集っていた。もともと文化の発信基地であった渋谷に、ITスタートアップの波が訪れ、異様な熱気に包まれた時期があったのだ。
時代の最先端を行くクリエイティブワーカーを魅了することで、さらに多様な人たちが集う街にしたい。
トルクには渋谷ストリーム地上1階の、大型エレベーターを利用することにより、自転車とともに入ることができる。店内にはサイクルラックを完備。そこに自転車を停めて店内はもちろん、アクティビティコートを利用することができるのだ。
アクティビティコートでは自転車乗りのための情報提供やイベントが開催されていて、人々が集まるコミュニティスペースとなっている。
自分たちが楽しめれば、
その気持ちはお客様にも伝わる。
吉井 当社の主幹事業は映画興行です。人を喜ばせる、楽しませることを生業にしている我々にしかできないことをやろう、ということは考えていました。長年培ってきたノウハウや、当社だからこそ提供できる価値がなければやる意味がない。
さらに、サイクルカフェにすることは決まっていたので、ターゲットの設定も重要でした。あまりハイエンドのユーザーばかりを集めてしまっても広がりが生まれないだろうから、間口は広く持とうと考えたのです。
塚本 トルクでは世界最高峰のサイクルスポーツイベントである「ツール・ド・フランス」との日本初のコラボカフェを実施した実績はありますが、普段は、クライアントの「発信の場」として使ってもらうという意識でいます。例えば、クライアントであるスポーツブランドの新作発表会やシークレットパーティのような事例があります。「こんなことできたら良いよね、楽しそうだよね」とクライアントと話したことを形にしていくのです。
何よりも当社の仲間や店舗のスタッフが楽しんで仕事をすることが大事。そうすれば自ずとイベントも店舗も盛り上がります。自分が楽しめるかという点も重視しています。
トルクのお客様に求められているものはなにか。その答えはお客様の中にあるが、ニーズだけを単に追いかけるのでは、まだこの世にないものをゼロから立ち上げることはできない。流行を追いかけるのではなく、自分たちで作りだしていく、という気概。そうして自分たちが送り出すものに対して、愛情や情熱を持ち続けることができるかどうか。
「楽しんでいるかどうかは、お客様にも必ず伝わる。だから、自分たちがお客様の立場に立って、楽しいと思えるものを提供するのが大事」と塚本は言う。
店舗の運営に欠かせないのが、実際にお客様と接するスタッフだ。そんな店舗スタッフと先輩・上司である吉井、塚本をはじめとした本社社員の間に入り、奔走しているのが入社4年目の増井翼だ。
若手の意見を尊重してくれるから、
働きがいがある。
増井 店舗スタッフと本社社員とでは見えているものが違います。本社と店舗を繋ぐ「橋渡し」をするのが自分の仕事。店舗スタッフには気持ちよく仕事をしてもらうことを常に心がけています。一方で言うべきことはしっかり言わなければならない。そのためには一人ひとりを尊重することが重要です。伝え方も人によって変えたり、タイミングを考えたり試行錯誤しています。
トルクの立ち上げにあたり、増井が尽力したのがレジシステムの導入。トルクでは自転車用品から飲食物まで多岐にわたる商品を扱っているが、それらの処理がスムーズに進むシステムを自ら提案して導入した。
増井 売り上げ規模の大きいシネコンでは、発券システムを自社で開発・カスタマイズしている一方で、規模が小さいところではアナログなレジスターキャッシャーでの対応が社内では一般的でした。コミュニティカフェ事業においては、それほど大きな収入規模ではありませんが、オペレーションの簡素化や商品分析などを効率的に行いたいと考えている中で、クラウドサービスのレジシステム導入を提案したのです。当社には若手の意見を尊重する風土がありますが、今回、それをあらためて感じましたね。導入にあたっては財務部など社内の他の部署との連携も多く大変でしたが、吉井さんや塚本さんをはじめ、周りの方々のサポートのおかげで無事に運用を開始できました。若手の意見も尊重してくれ、何か提案すれば必ずフィードバックをもらえる。そしていっしょに走り切ってくれる上司がいる。とても働きがいのある職場だと思います。
ひつじのショーンビレッジ
ショップ&カフェ
キャラクター/アニメーションの世界観を体感できる店舗は、
制作者の想いに寄り添うことから始まる。
吉井 トルクは初のコミュニティカフェ事業で、オープンまでに紆余曲折ありましたが、なんとかオープンにこぎつけました。その後に手掛けたのが、「ひつじのショーン」のカフェです。世界約170か国で愛されているクレイ・アニメーションの世界観を体感できる飲食店舗をつくりながら、かつ人が集まるカフェにするには、また別の難しさがありましたが、トルクの経験で飲食店舗の立ち上げまでの行程はつかんでいたので、それは役立ちましたね。
ショーンビレッジの立ち上げをメインで担ったのが、吉井と大神だ。大神は中途入社で、飲食経験はもちろん、店舗を立ち上げるための工事の知識や、メニューや商品開発の経験などすべてが未知の業務であった。
そこでまず彼女が行ったのが徹底したヒアリング。早い段階から同チームの若手メンバーや、社内のショーンファンなどにヒアリングを開始し準備をしていた。そのおかげでアイディアを広げることはできていたが、今度は収束に難儀した。このとき、「ターゲットとコンセプトを明確にする」「譲らないものは譲らない」という吉井からのアドバイスで、目の前が開けた。
大神 最初は彼らのイメージや想いをすべて実現しよう! と思って動いていたのですが、それだと予算がいくらあっても足りないし、コンセプト案を絞るのが大変だった(笑)。吉井にもアドバイスをもらって一番大事なところにフォーカスすることにして整理しました。出した答えは「ショーンの世界の中で大人が楽しめ、思い出がつくれるお店」。ターゲットは、「大人の女性」としましたが、ローカルな立地であることも踏まえファミリー層も自然と落ち着ける店にしたいと思いました。大人の女性に受け入れられれば、必然的に世の中に広がっていく、という確信があったからです。その大人の女性に来てもらうために、「ひつじのショーン」のクレイ・アニメーションの撮影セットの世界の中で、キャラクターたちと食事ができたら楽しいのではないか。食事をしながら撮影や買物もでき、作品の歴史や制作過程が知れる展示も楽しめるミュージアムのようなカフェにしたい。そこから「牧場主のお家でショーンと一緒に過ごせるカフェ」というコンセプトでアイディアをまとめた結果、一番実現したかったミュージアムカフェ構想にたどり着きました。実際に採用された時は嬉しかったです。
大神は「ひつじのショーン」を制作するアニメーションスタジオを見学する機会に偶然にも恵まれた。クレイ・アニメーション制作の舞台は想像を超えた地道さであった。1日に撮影できるのはわずか6秒で、撮影だけで数年の歳月を要する。それでも子供のように目をキラキラさせて、我が子を見守るようにパワーと愛情を注ぎながら撮影をする制作陣の姿に感銘を受け、このプロジェクトへの想いはさらに強くなった。
大神 「ひつじのショーン」の世界に入り込んだ感覚をお客様に実感してもらいたい思いがあったので、権利元と何度もやりとりを繰り返しました。同じキャラクターが視界の中に重複して沢山映り込んではいけないとか、カーテンのデザイン一つにしても、最新シリーズで使われているものに近い柄でと指定が入ったりとか、こだわりの強さを感じました。特にスタチューの細かな表情をとても大事にしていて、見つめる角度や焦点が合っているか、目玉に生気が宿っているかという視点で、ショーンたちの黒目の位置は本国スタッフが現場で緻密に調整しました。一方で遊び心も非常にある方たちで、よく探さないと見つけられない「隠れショーン」を店内の内装に潜ませることを提案したところ「ショーンがやりそうなことだ」と言って喜んでいただけたのです。スタジオ見学をして「ひつじのショーン」は家族愛がテーマである事にも気づくことができました。アニメーションスタジオの皆さんが果てしない時間をかけて感情豊かなこの作品を作り続けるのも、ショーンたちへの家族のような愛情ゆえと確信。居心地の良い空間、大切な人や、初めて出会う人との思い出がつくれるお店にしなければ「ひつじのショーン」を体感できない!と思いましたし、チームが皆同じ想いで走り続けました。そのようにして少しずつ彼らと気持ちがひとつになっていったような気がします。
世界観を構築しながら「カフェ」としての機能も成立させなければならない。そのために導線の確保など飲食店としての機能を各協力会社と調整していく必要があった。世界観を守りながら、飲食店としての機能をバランスよく入れていくために、権利元や協力会社、店舗スタッフと何度も何度も話し合いを重ねて検討を進めた。苦労を共にしたチームメンバーとともに迎えたオープンの日はとても感慨深かったと大神は言う。そして、もっとも感動したのは、色々な世代のお客様にご来店いただいているのを目の当たりにしたときだった、と。
チャンスがめぐってくるそのときに
いつでも刀を抜ける準備をしておこう
吉井 新規事業というのは、華やかに見えるかもしれませんが、本当に地道な作業の連続です。そして自分の考えを会社に通すには、いろいろな経験を積むとともに、人間関係を構築していく必要があります。ですからどんなに良いアイディアを持っていたとしても、入社してすぐにこの仕事を成し遂げるのはなかなか難しいと思います。
とは言いながら、比較的早い年次にチャンスがふっと湧いてくるのも当社の特徴です。お店を一つ任されるということは、小さな会社を一つ持つことと同じで、運営はもちろん、総務、広報、経理、人事、法務、すべての経験が得られます。そういった意味で、自分に関係のない業務というのは会社にはありません。たとえ与えられた仕事が自分の望まぬものであったとしても、何かしら自分のやりたいこととの接点を業務の中で見出し、向き合っていくことで、自分のなりたい姿にいずれ繋がっていきます。そしていつか本丸にたどり着いたときに、その思いを遺憾なく発揮できると思います。
そして、もう一つ大事なのは発信し続けること。初めから完璧なプランはありません。どうしたら実現できるか、さらに良いプランにするにはどうしたら良いかをいろいろな人と意見交換をしながら、思考を止めずそのプランを研ぎ澄まして、いつでも刀を抜く準備はしておきましょう。そういったたゆまぬ努力が常態化していれば、刀を抜く機会を無理やり求めなくても自然とやってくるし、できるようになると信じています。
※所属は取材当時のものです。